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技術の継承と新たな挑戦。福井キヤノンマテリアルが目指す次のステージ。

福井キヤノンマテリアル株式会社
代表取締役社長 植松 弘規

更新日:2025年6月18日

兵庫県生まれ。京都工芸繊維大学大学院修了。
1992年 キヤノン株式会社 入社。
2024年 福井キヤノンマテリアル株式会社 代表取締役社長 就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

「感光ドラム」開発30年の歩みを経て、福井の地へ。

福井キヤノンマテリアルはコピア株式会社の福井事業所を前身とし、創業時は複写機・プリンター用途の材料を主軸とする化成品事業からスタートしました。

その後、電子写真用途のOPC(有機光導電体)原材料の製造においてシェアを獲得しつつ、それまでに培った技術をケミカル事業領域へ展開することを目指し、キヤノンの完全子会社化を経て2017年に福井キヤノンマテリアルへと社名を変更しました。有機ELや半導体で用いられる電子デバイス材料など、幅広い分野への技術の応用をもとに新たな事業への挑戦を続けています。

私は2024年度よりキヤノン本社から当社の代表に着任しました。生まれは兵庫県西宮市で、大学院の修士課程で化学分野を修了したのち、1992年にキヤノン株式会社へ入社します。

入社後は東京の開発部に配属され、コピー機の材料である「感光ドラム」(レーザープリンターやコピー機のインクを紙に転写する役目を持つ筒状の部品)」の開発チームに入りました。

キヤノンへの入社以来、30年間にわたって「感光ドラム」および光半導体分野の業務に携わり、開発畑を歩んできました。その間にリーダーや管理職の役目を担いながらキャリアを積み、2024年4月からは福井に移り住んで今に至ります。

仲間と共に製品を生み出した経験が開発者としての転換点に。

キヤノンでは1996年に開発部隊が静岡県裾野市へ引っ越しましたが、それに伴い私も静岡での勤務となりました。30年のキャリアで多くのプロジェクトを経験しましたが、中でも記憶に残っているのは1998年から2005年まで携わったプロジェクトです。

その頃は一つ前のプロジェクトが失敗に終わり、私と先輩をあわせて4人ほどのチームでやるべきことがなくなってしまいました。しかし、それをチャンスととらえて4人でさまざまなアイデアを出し合って話し合いをしたり、展示会や学会に出かけたりして、「次は何をやろうか」と考えて徐々に形にしていきました。

非常に理解のある上司で、のびのびと仕事をさせてもらいました。開発に没頭するあまり、深夜まで働いてしまったこともあります。

そのときのチームメンバーは誰も「言われたからやる」という考えはなく、誰もやったことがない、今までにないものをつくる使命に燃えていました。上司も「これをやっておけば間違いない」という信念があり、私たちの研究を力強くバックアップしてくれました。

2005年に製品化されるまで7年ほどかかりましたが、斬新な技術に携わりながら、とことん突き詰めた結果として新しい製品を生み出せた経験は、私の開発者人生において大きなターニングポイントになりました。

そのとき開発した製品の材料は、今もここ福井で作り続けられており、福井キヤノンマテリアルとの強い縁を感じています。

社員の本音を聞き出すことから始めた、チーム再生のストーリー。

2006年からは管理職を務めましたが、特に部長職になった2015年以降は大きな壁にぶつかりました。多くの社員が「将来に対する不安」や「頑張っても報われない」と感じる組織になっており、職場の士気が落ちて雰囲気もあまり良くありませんでした。

そこでまずは40人ほどいる感光ドラムの開発部署の全員に対し、社内の喫茶コーナーでお茶を飲みながら年1回の1on1ミーティングを開いて、社員の声を聞くことから始めました。コミュニケーションを取る部分が一番苦労しましたし、意識した部分でもあります。

そして、社員が職場に対して感じていることをすべて吐き出させようと、グループごとに模造紙に不満を書き出してもらうワークをしました。「言いたいことがあったら全部言いなさい」と。

たくさんの不満が出ましたが、一度言葉にしてみるとすっきりするようで、雰囲気はだいぶ良くなりました。その後は不満をもとに改善策を立て、具体的な実行計画に落とし込むことを丁寧に進めていきました。

2~3年ほど経つと風土が改善されてきたため、次は社員から「こんなことをやりたい」とアイデアが出る組織にしたいと思いました。

ただ、感光ドラムの開発で日常業務の時間を100%使っている社員たちは、多くの人が「製品を出さなくてはいけないし、忙しくて時間もないので新しいチャレンジなんて考えられない」と言います。ですから、新しいことができる時間を作ってあげて、将来につながる環境の整備に着手しました。

部署内の数人はそんな環境の変化に対応し、新しいことに着手するメンバーが出てきます。そういった社員にスポットライトを当てると、周囲の人も「面白そうだな」と注目し始める。そんな地道な活動を通して、少しずつチャレンジする人材を増やしていきました。

この考え方は福井キヤノンマテリアルに来てからも大切にし、組織づくりに活かしています。

「意志を持って発信し、動ける人」が主役になれる職場。

近年は多くの業界でリモートワークや業務のデジタル化が進み、今後のプリンター需要は下降すると予想されています。これからはプリンター領域で培った技術を他の事業に転用することを視野に入れ、福井キヤノンマテリアルでもさまざまな挑戦をしています。

そんな中で当社が求める人材は、言われたとおりに仕事をするのではなく、意思を持って業務に向かえる方です。現場で働くメンバーと協調しつつ、他社で経験したエッセンスを当社にもたらしてくれる中途人材は、非常に魅力的な存在です。

もし当社でやってみたいことがある方は、「やりたいことをやらせてあげるから、ぜひ来てください」と伝えたいですね。挑戦の意欲にあふれる方が力を発揮するフィールドは整えているつもりです。

実際に私も30代の頃、上司のバックアップのもとで自由にやらせてもらった経験から多くのことを学び、新製品の開発までつながりました。ですから、私も部下たちには同じようにしたいと考えています。

実力ある社員がキャリアや業務内容に満足感・モチベーションを感じながら働き続けられる職場風土を目指し、定期的に新しい人材を迎え入れながら今後も成長を続けたいと思っています。

未来志向の材料開発は、社員の自由な発想から生まれる。

当社では2024年度より、キヤノン株式会社と協業でペロブスカイト太陽電池(シート状で柔軟性が高く、薄くて軽い太陽光発電装置)の材料の製法を検討し始めました。これは私がキヤノンで部長だった時代に、ある新入社員が「ペロブスカイト太陽電池の開発をしてみたい」と直談判したことが発端となっています。

開発や研究を進めるうちに、キヤノンの技術がペロブスカイト太陽電池に応用できることがわかってきました。一人の新入社員の声が今では大きなプロジェクトになり、今後は福井キヤノンマテリアルの総力を挙げて開発を進め、製品として世の中に出すことを目標としています。

福井に来てから感じるのは、社員みんなが真面目・素直・穏やかで、自分の担当業務を確実に遂行できる人が多いということです。それは日本一幸福だと言われる福井の県民性かもしれないし、キヤノングループへ材料を供給するという強い責任感が関係しているかもしれません。

しかし、これからは新しい開発事業が進んでいくため、自由に発想したり、アイデアや意見をどんどん言える環境が重要になってきます。新しいことをするときは誰しも不安になるので、それをいかに解きほぐしてあげられるかがトップである私のミッションだと考えています。

私から見ればみんな大人しすぎて「もっとわがままを言ってくれてもいいのに」と感じるほどです。自立した人材を育てることは最終的に会社の成長にもつながるので、今後はグループ外から売上を獲得することも視野に入れながら、攻めの姿勢で事業領域を広げる会社にしていくつもりです。

広報の力で社員の誇りを育て、培った技術を次の未来へつなぐ。

1992年にキヤノンで感光ドラムの開発部署に入ったとき、周囲の人に「どんな仕事をしてるの?」と聞かれ、「感光ドラムを作ってるよ」と答えても誰もわかってくれませんでした。それが非常に寂しく、世の中にどう役立っているのか説明できないもどかしさもありました。

福井キヤノンマテリアルでは、プリンター・カメラや半導体製造装置向けの多様な材料を作っています。しかしどれも製品とのつながりが見えにくく、もしかすると社員も若い頃の私と同じ気持ちを感じているかもしれません。

できれば家族や友人に「私は世の中の役に立つこんな仕事をしていて、すごく良い会社なんだよ」と胸を張って言えるようになってほしいので、社内で「当社の製品は最終的にここにつながっている」という認識をもっと広げることが今後の課題です。

それは社外も同じで、「福井キヤノンマテリアルとはこんな会社だ」というイメージをさらに広く伝えていきたいと考えています。最近では、地元の小学生に向けた出前授業で当社の取り組みを紹介する活動をしています。

社会的な認知が得られれば、グループ外でお取引先が広がり、社員の仕事への活力アップも期待できるでしょう。そんな理想の未来を目指し、今はコツコツと広報活動を続けています。

当社には創業時から培われてきた高い技術力があります。それを従来の製品づくりのためだけに使うのはもったいないと思います。

私が就任して1年目の2024年度は、これまでの技術などを整理することに時間を使いました。今後はその技術を活用するフェーズに移り、社員の挑戦したい気持ちを尊重しながら、世界中のお客さまに喜んでいただける新しい技術や製品を提供していきます。

編集後記

コンサルタント
小西 研吾

キヤノンでの開発業務について本当に楽しそうにお話しされているのが印象的な植松社長。挑戦することの面白さや会社に好影響を与えた経験を社員に味わってほしいとお考えで、そんな環境を作ることに注力されています。

今後の成長戦略や新規事業への参入について明確なビジョンを伝えていただき、聞いている私もワクワクしました。

開発だけでなく、管理部門でも「こんなことをやってみたい」という前向きな気持ちがある方を社内外問わず求めています。意思をもって挑戦する方が活躍できる場が整えられている同社に、よりいっそうのご支援をしていきます。

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